ある日、みすぼらしい身なりをした、年とった女の人が、この村にやってきました。
「わしは、ずっと南の方から雲に乗ってきただよ」
まじめな顔をして言い、佐野坂の空を指さすのでした。
「きっと、百姓がつらくて、逃げてきたがずら」
「目がつり上がってるで、キツネつきの女かもしれねえじ」
村人たちは、そんなことをうわさし合いました。しかし悪いことをするでもなく、そのうちに、村人たちは、気の毒がって村はずれの作小屋を貸してやりました。
女は、たのめば洗濯や針仕事、田畑の仕事などを手伝ってくれるので、村の人たちも食べ物を与えたりして、仲良く暮らすようになりました。
白馬連峰に初雪がきて、里がすっかり秋になったころ、その女は
「わしは、もうすぐ鑓温泉の湯滝で修行し、鑓の山姥になるで・・・」
そう言い残して村から消えてしまいました。
「わしは、ずっと南の方から雲に乗ってきただよ」
まじめな顔をして言い、佐野坂の空を指さすのでした。
「きっと、百姓がつらくて、逃げてきたがずら」
「目がつり上がってるで、キツネつきの女かもしれねえじ」
村人たちは、そんなことをうわさし合いました。しかし悪いことをするでもなく、そのうちに、村人たちは、気の毒がって村はずれの作小屋を貸してやりました。
女は、たのめば洗濯や針仕事、田畑の仕事などを手伝ってくれるので、村の人たちも食べ物を与えたりして、仲良く暮らすようになりました。
白馬連峰に初雪がきて、里がすっかり秋になったころ、その女は
「わしは、もうすぐ鑓温泉の湯滝で修行し、鑓の山姥になるで・・・」
そう言い残して村から消えてしまいました。
村の人たちが、この女のことをすっかり忘れていたころ、猟師が山から下りてきて話しました。
猟師は鑓温泉の近くに寝泊まりする小屋を作り、クラシシ(猪)やクマを追いかけてはこれをしとめていました。ところが、その日は雨降りで猟ができないので、小屋の中でたき火をしながら、鉄砲を磨いていました。
小屋の入口のむしろがぱたぱたと鳴り、風がスーッとふきこんでくるので、どうしたのか、と顔を上げたとき、むしろが開いて、まっ白い着物を着た山姥が、小屋の中をじっと見ていました。つり上がった目、大きく開いた真っ赤な口には、牙がのぞいています。
「ここの山は、わしのもんだぞ、キャババ」
そう言って立っています。
おどろいた猟師はあわてて鉄砲に弾をつめてうちまくりましたが、気がつくと山姥の姿は消えていました。おそるおそる鉄砲をかまえて外に出てみましたが、なにも見えず、はげしい雨と、山をわたる風が吹いているばかりでした。猟師はすっかりおそろしくなり、あわてて山を下りてしまったというのです。
村人たちは、
「あの女は、ほんとうに山姥だったのだなあ」と、うわさし合いました。
猟師は鑓温泉の近くに寝泊まりする小屋を作り、クラシシ(猪)やクマを追いかけてはこれをしとめていました。ところが、その日は雨降りで猟ができないので、小屋の中でたき火をしながら、鉄砲を磨いていました。
小屋の入口のむしろがぱたぱたと鳴り、風がスーッとふきこんでくるので、どうしたのか、と顔を上げたとき、むしろが開いて、まっ白い着物を着た山姥が、小屋の中をじっと見ていました。つり上がった目、大きく開いた真っ赤な口には、牙がのぞいています。
「ここの山は、わしのもんだぞ、キャババ」
そう言って立っています。
おどろいた猟師はあわてて鉄砲に弾をつめてうちまくりましたが、気がつくと山姥の姿は消えていました。おそるおそる鉄砲をかまえて外に出てみましたが、なにも見えず、はげしい雨と、山をわたる風が吹いているばかりでした。猟師はすっかりおそろしくなり、あわてて山を下りてしまったというのです。
村人たちは、
「あの女は、ほんとうに山姥だったのだなあ」と、うわさし合いました。
今でも、白馬鑓のあたりで、ときどき登山者が遭難するのは、この山姥のいかりにふれるようなことをしたからだと、村の人たちは言っています。
平林治康、石原きくよ著(信教出版部)「塩の道の民話」より



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