以前お約束した大出(おおいで)の河童の話です。
昔々、大出のある家の雪隠に、毎夜怪しいものが出て、用便に行った人のしりを撫でるというので、家中の人は皆恐れていた。ある夜主人は十分注意して雪隠に入り今か今かと待っていた。果たして怪物は出た。例のごとく手を延べてしりを撫でた。主人はこのときとばかりに腕を押さえて力を込めて引いた。怪物は逃れようとしてついに腕を引き抜かれた。
怪物はその次の夜侘びにきて、「私は水神に棲む河童であります。今までの悪いことは許して下さい。その返礼として河魚を毎夜捕えてきては進ぜます」と言った。主人は、何を言うことか、あてにもならんが腕を家においても仕方ないからと、それを彼に返した。彼は喜んで持ち帰った。この家ではそれでもとたらいを庭に出しておいた。翌朝、それを見たら活きのいい河魚がたくさんいた。毎夜毎夜、そのようであった。
ある夜たらいがふさがっていたから、その代わり鍋を出しておいた。河魚は一匹も入れてはなかった。その後はたらいを出しても、その時限りになった。河童が腕をもらいに来た時伝えた、諸病に効験のある妙薬がある。これを「水神様の御夢想」という。産前産後の腹の痛みには特効があるということで、昔は遠方からももらいに来たそうだ。
先代社長郷津弘文著「千国街道からみた日本の古代」塩の道の民話より
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